<縄好きが150人以上>
冬場の天気のいいポカポカするその日の午後3時、子供ならおやつの時間といったところだが、ここ渋谷の地下
club「module」 では、縄好きが150人以上も集まり、満員の部屋の中でねっとりと汗をかきながら舞台を見入っていた。
渋谷メンバーズバー「眠れる森の美女」のマスターにして
緊縛師の一 鬼のこ(はじめ きのこ)が主宰している
縄サロン「一縄会」主催の
「冬縛縄宴」
である。
過去2回開催し、大盛況で幕を閉じた季縛縄宴も今回で3回目を迎え、 今回は冬の開催なので「冬縛縄宴」と呼ばれていた。
今回は、開始時間を日曜の午後に変更し、会場も
渋谷メンバーズバー「眠れる森の美女」から飛び出し2フロア、2舞台で実施した。
午後3時開場、3時30分スタートで午後10時30分演技終了という7時間の長丁場ながら、地下1Fで10演目、地下2Fで11演目をこなすため、2舞台で並行してのスタートである。
最初はふだん見たことがないパフォーマーやゲストパフォーマーに絞って、二つの会場を上下に素早く移動して取材しようと思っていたのだが、あまりの観客の多さに、一度一つの会場に入ると身動きできず、また別の会場に移動すると既に満杯で入れないという事態を悟り、やむを得ず、前半を地下2F、後半を地下1Fに絞った取材となってしまった。
残念ながら、
若林美保のM女ぶりと、ゲストパフォーマー
「奈加あきら」、
「Yagiё」のステージは見ることができなかった。
テーマ通りSM緊縛中心のイベントなのだが、なぜこんなにも老若男女を問わず人が集まるのだろう。
前回に引き続きMCを担当した「
神田つばき」のように、舞台でM女達が次々に縛られ吊られていくのを、最前列のかぶりつきで悩ましげに唇に指を当てて見ていたいとでも云うのだろうか。
<貴方も緊縛師に>
それにしても、「一縄会」に参加の緊縛パフォーマーの人材の豊富さには驚きである。
ゲストパフォーマーの
「奈加あきら」、
「Yagiё」、「
SHIMAmalphas」の三人以外は、出演者は全て「一縄会」関係者なのである。
例えば、今回は地下2Fの舞台でトップを切った「
海月くらげ」。
渋谷メンバーズバー「眠れる森の美女」では「メガネ」の愛称で親しまれているスタッフだが、若手ながら作務衣姿で白い着物のM女モデルを縛る動きは、以前より見せるSMショーとしての飛躍が感じられ、特に今回M女モデルの白フンドシの端に縄を通して吊ったエロっぽさは花丸ものだった。
2002年に活動を開始したという「
ひこ」は、M女性を肩に抱えて登場したかと思うと、そのM女性が観客に姿を現した時には、既に足掛けのブランコのようなもので逆さ吊りにしていた。
わずかな腰の薄物の下にパンティをのぞかせたM女性の、むきだしとなった巨乳、巨乳輪をさらに強調するかのように、赤い縄がトップレスブラのごとく包んでいった。
「獅子若」は、カラビナを滑車のようにうまく使ってM女を膝折のまま一気に宙に引き上げ、キスの飴と、竹バラによる鞭を使い分けた。
宙に浮いたM女の身体を、花器に花を活けるように飾りフィニッシュを迎えたが、緊縛の基本に忠実ながら音楽とムードを大切している人物に思えた。
また、わざわざ本拠地の名古屋から一縄会に参加している「
蓬菜かすみ」は、吊りではだけた赤い長襦袢のM女に、シャボン玉を吹きかけて幻想的な一枚の絵のごとく見せ、観客の目を楽しませた。
「
に〜やん」は、縛るだけではなく縛られたい女性も参加する一縄ノ会で、女性の評判が高いというが、ソフト帽、オーバースタイルでゴッドファーザーの愛のテーマで登場したかと思ったら、いきなり観客席の女性をつかみ舞台へと引き上げた。
Tバック一つのM女のセミロングの髪の毛が床を掃くように吊られる姿は絵になるが、宙吊り水平開脚のままM女の手の縄をほどき蝋燭を持たせて自分でロウソク浴びさせるというのは珍しかった。
この人的な層の厚さは、緊縛師一鬼のこの多大なる刺激と、
渋谷メンバーズバー「眠れる森の美女」で
・Air(エアー)緊縛世界選手権(月1回程度の「桃色鬼祭り」開催時に実施)
・海獅子縄教室(月2回開催、初級・中級あり)
・一縄ノ会(月2回開催、サロン形式)
・一縄研究会(月1回開催、中級終了者対象)
等を定期的に開催し、誰でも自由に緊縛に参加できるという環境が実を結んだのではないかと思う。
想像するに、これからは「一縄会」出身の緊縛師が、たくさんのSMショーの表舞台に登場してくるのではないだろうか。
実際、何人かのメンバーが
新宿DX歌舞伎町にて定期的に開催しているSMショー大会に既に出演しているのである。
(本年3/11(木)〜3/20(土)
新宿DX歌舞伎町「DX SM LIVE SHOW」にも出演予定)
<落雷と猫の悲鳴の中、天空のシャンデリアM女>
登場した女性がドクロに蝋を浴びせていた。
彼女もまた呪っているのか、いや呪われているのだろうか。
ゴスM =ゴシックの廃退した美とSMの耽美エロスを融合、と言えば、「
SHIMAmalphas」である。
暗闇の中、落雷と猫の悲鳴をバックミュージュックにした緊縛、そして最後には責めたM女は殺すというスタイルでB1Fのトリの舞台を飾った。
主宰の
緊縛師一 鬼のこの持つ独特の雰囲気が、今日出演した一縄ノ会のメンバーの多くに多大な影響を与えていることはまちがいないと思うのだが、彼自身も常に新たな工夫と頂点への追及に余念がない。
緊縛師一 鬼のこは、今回のショーには天井高く滑車を準備していた。
思わず脳裏には
長田ゼミナールの故長田英吉先生のショーの姿が浮んでいた。
ギチギチと麻縄とM女の肌がこすれあい、音をたてて縛り上げ、滑車により背景の金屏風より高くその身体が吊り上げられた。
M女の身体に濡らした手拭いを鞭代わりしたスパンキングと、竹棒の先で乳首を押し包み、さらには逆さのVの股間に責めをくわえていく。
逆海老縛りのまま三角を形作った縄にとりつけられた6本の蝋燭が、カラッカラッ、キリキリと滑車と縄がすれあう音を立てながら天空に浮かぶ姿は、まるで緊縛された女体そのものが中世の蝋燭のシャンデリアを思わせた。
ようやく天空から解放され、床に横たわったM女の身体の上には、今ほどかれたばかりのM女の肌のぬくもりと
緊縛師一 鬼のこの気迫がこめられた縄が、
緊縛師一 鬼のこの手によってM女の全身をなぞるように置かれていった。
それはMC「
神田つばき」曰く、
「人と人との触れ合いを、言葉ではなく縄を通じて」
というナレーションそのままの光景だった。
<写真は見えない前後を想像>
SM緊縛がメインと言っても、緊縛パフォーマーとM女のSMショーだけのイベントではない。
特に今回は、緊縛写真家として名高い「
杉浦則夫」と「
神田つばき」のトークショーが行われるというのも楽しみの一つだった。
「
神田つばき」にしてみれば、何しろ初めて雑誌マニア倶楽部のインタービューしたのが10年前の「
杉浦則夫」だったという。
一方の「
杉浦則夫」は、もはや緊縛写真家として40年になるという。
(10年前と言えば、私にとってはM願望女性のための
SM情報サイト「Mドリーム」 を立ち上げたばかりの頃だし、40年前と言えば、まだ高校生でオナニーから大人の性の世界を覗き込みたく、SMを知るのはそれからまだ干支が一回りするくらい先という昭和40年代のことである)
?「緊縛のモデルとしてはどういう女性が理想的なのですか」
→「あまり素直すぎない方がいい。素直すぎると会話を作っていくことができず、一方的になってしまうから」
「撮影開始当初はまだ緊縛モデルと言っても、今日のようにプロダクションから事前の説明を受けている訳ではなく、現場に着てから覚悟を決めるといった女性がほとんどだった」
そういう中、次第に撮影現場のテンションが上がっていく中で縛られている女性側の方はどうなのだろうか。
本イベントに一般参加して、突然トークショーに飛び入りさせられた超売れっ子のAV女優
川上ゆうは、
「このままずっーと続いて欲しい」
と思うことがあるそうだ。
もっとも、「
神田つばき」流になると
「
このまま死んでもいい」
と思うらしい。
?「SMに限らず昨今の雑誌や写真への低い反響に対してどう思いますか」
→「自分のサイトへのリクエストはほとんどが四、五十代である。むしろ今日はこちらが、若い人のSM写真への関心の度合いを聞きたい」
→「ビデオは全部見えるが、写真は見えないその前と後ろを想像させる。また、ビデオは男優と女優が向き合っているが、写真は被写体と読者で向き合っていると思う」
・・・二人の時代を語りあう会話のやり取りの中、古本屋でSM雑誌の写真を見て衝撃を受け、SMの世界へ入り込んだ自分を思い出していた。
<首をしめる縄>
また、一縄ノ会の上級クラスともいえる「一縄研究会」(月1回開催、中級終了者対象)では、
「捕縄術」(とりなわじゅつ)の研究が行われており、今回はその成果の一部が披露された。
捕縄術(ほじょうじゅつ/とりなわじゅつ)とは、棒術、薙刀術、柔術、居合等と同様に日本の伝統武術の一つで、敵を縄で捕縛・緊縛するための技術であり、捕り物道具(捕具)などとしても活用された。
種類としては、
・敵を取り押さえる「早縄」
・捕らえた敵を護送するときに用いた「本縄」
があったという。
また、縛られた者が自ら関節等を動かせて「縄抜け」する術も、捕縄術の一種だそうである。
関連の文献が少ないのは、「捕縄術」は敵を捕らえる、また捕らえた敵の処置を行うに欠かせないもので、日本国内の当時の国毎による秘密の情報であったためらしい。
今回、「一縄会」の「
海月くらげ」。と
「獅子若」がM女をモデルに解説付きで見せてくれたのは、南部藩(現在の岩手県中北部(陸中国・旧陸奥国中北部)から青森県東部(陸奥国)にかけての地域を治めた藩。江戸時代に「南部」から「盛岡」へと改められた)の捕縄術である。
・かかってくる相手の腕を捕らえ、そのまま腕を首に回し、縄で曳いて首にかける
・倒した相手を逆海老状態にして、同じく首に巻きつける
いずれも、縄が首に巻きついているので、少しでも身動きすれば自分で自分の首が締めることになるのである。
しかも、実際に捕縄として使われた縄は、当時最も強度がある素材の絹糸を縒って太さφ3mm〜5mm程にした細紐だそうだからさらにきつかったことだろう。
そう言えば、捕縄術とSMの関係となると故明智伝鬼先生も長年研究されていたという。
<和牛の胸縄縛り吊り、有名プロも一般参加、次回は「秋縛縄宴」>
「緊縛弁当」1500円也。
少々高いのではないかと思ったがこれがどうしてどうしてボリュームがあり、しかも目を楽しませてくれるのである。
緊縛弁当の中身:縄束こんにゃく、蝋燭人参の煮物、バラ鞭天麩羅、和牛の胸縄縛り吊り、一本鞭紅しょうが、椎茸としめじのいくら添え、イカのカラビナ風マリネ、アメ玉風チーズ揚げ、一縄ご飯
椎茸としめじのいくら添えとアメ玉風チーズ揚げ以外は、全てSM・緊縛がらみで、中でも
「和牛の胸縄縛り吊り」は、文字通り弁当箱のフタを開けると縛られた牛肉の塊がフタの裏側から内側の箱へ向かって吊られた状態になるという懲りようである。
ただ、あまりの混雑の中、食べる場所がなくやむを得ず弁当包みを開いた場所は、男女共用のトイレのドアの前だった。
私が食べていると、女性が一人現れ隣で弁当包みを開いてくれた。(感謝!)
●ブース
■物販ブース出店
・「
神田つばき」
メス豚.com(DVD販売)
・甘味処 (みたらし団子販売)
・
奇譚屋デザインファクトリー (オリジナル緊縛ストラップ販売)
・緊縛弁当屋 (弁当販売※限定50食)
・
杉浦則夫ブース (作品販売)
・
縄屋.com(緊縛用麻縄販売)
・Bee−Can (蜜蝋販売)
■特設ブース
・緊縛撮影ブース
(緊縛師が緊縛を施し撮影。できあがった作品はアルバムに入れて渡してもらえる。
カメラマン:安藤青太)
・
天ノ介の鞭制作ブース
(皮革職人である天ノ介が鞭を制作 完成した鞭は当日オークション形式で販売)
●緊縛写真作品展
・
菅野ケイ写真作品展
・
杉浦則夫写真作品展
また場内には、先のトークショーに飛び入り参加したAV女優
川上ゆうだけではなく、
長田スティーブ、極悪緊縛師の
風見蘭喜、
魁の陋屋の魁、
東京・大阪のSM&Fetishバー「ARCADIA」のオーナー
蒼月流等の有名なプロが参加し、ファンと自由交流していた。
緊縛ファン、プロも入り乱れた本イベントが、ほぼ時間通り、プログラム通り運営されたのは、主宰
一 鬼のこの統率力と入念に配置され無線等を活用して相互に進行の調整をしながら、ショーの終了予定時間5分前ともなれば演者に「5」と書いたカンペを見せる等の気配りをする多くのスタッフの本イベントにかける熱意だったと思う。
尚、本イベントの次回「秋縛縄宴」 は、本年9月にも予定されているという。
追伸
しばらく休会していた
渋谷メンバーズバー「眠れる森の美女」の名物イベント「
桃色鬼祭り」来る2月25日(木)に再開。
(開場:17:30〜 会場:
渋谷7th FLOOR)
(文中敬称略)